11.18.2008

パンドラの口から出た言葉は禍いか否か 第二謌

 気付いたら 彼がどこかに居た
 雨の夜の街灯のようにさり気なく
 それでも確かに 彼は居た
 
 「お茶でもいかがですか?」
 と訊いても
 「いえいえ おかまいなく」
 と答えるだけ

 彼の姿を探しても
 背中の見えない私には
 頭痛が腹痛に変わるだけ



 裏と書いた紙が表を失うように
 隔たりは限りなくゼロに等しい
 青いグレープフルーツを 一口どうぞ



 右肩が重いのは 利腕のささやかな抵抗で
 「たまには左側で物事を考えろ」と呟く
 左耳が聴こえないのは 他人の吐く息で
 鼓膜が揺れるのが嫌だからで
 彼がそっと座っているに任せる
 
 「ここは居心地がいいですね
  外の喧騒が遠くにある」

 目で見るからいけないのか
 目が見えるからいけないのか




 瞼を開けていないと
 ものが見えないなんて
 瞼を開けて見るものに
 ろくなものはないのに



 雨をよけるのに夢中で 地面を踏み忘れた
 部屋の明かりが眩しくて 鏡の自分が見えなかった
 
 「想像力なんてものは必要ないんですよ
  そんなものに頼っているから
  ほら 夢を見ることを忘れている」



 
 彼の声がはっきり聴こえる程の
 夜の中心の交差点で
 ようやく私は 彼と出会えた
 そっと私は彼に近づき
 彼もまた 私に近づく
 来ることはわかっていた
 私がそう望んだから





 fetus of sardanapale...

 

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